今回取り上げる百貨店は、大阪市内と京都市内のほぼ中間に位置する高槻市にある「高槻阪急」と「松坂屋高槻店」である。本題に入る前に、まず高槻市について紹介しましょう。
同市の中心に位置するJR高槻駅や阪急高槻市駅の周辺は、百貨店や商業施設、商店街など多数の商店で賑わっている一方、市全体の面積の半分近くを北部エリアの森林が占める自然豊かな街でもある。
JRの新快速を利用すると高槻駅から大阪駅へ15分、京都駅へは12分。また、JR高槻駅と阪急高槻市駅の間が徒歩圏という利便性の良さもあり、駅前には関西大学の高槻ミューズキャンパスや大阪医科大学、山間部には関西大学の高槻キャンパス、平安女学院大学、大阪薬科大学が立地している。
2004年、JR高槻駅北側エリアの再開発として、シネコンやタワーマンションを含む複合商業施設の「アクトアモーレ」がオープンした事を機に、高層マンションが続々と完成した。
市政としては子育てに力を入れており、待機児童が少なく、豊かな自然を併せ持つ住みやすい街としてファミリー層などから人気で、関西のベッドタウンとして発展してきた。老若男女から人気が高くなった理由の一つには、JR高槻駅の北側にある西武百貨店(現:高槻阪急)、南側の松坂屋高槻店といった百貨店の存在も大きかったと考える。
高槻阪急は、2019年10月5日に西武高槻店から生まれ変わった。前身の西武百貨店は、開店直前に火災に遭う不幸に見舞われ、計画より一年遅れの1974年に開店した。その後は、ロフトや無印良品、ユニクロ、ABC-MART、JINSなどの若者に人気のショップが開店している。’19年に看板が「阪急」になった際は、地上フロアはほぼそのままで変わりなかったが、地下1階の食品売場は北野エースが加わった。そして、「阪急」へと変わった10日後の10月15日には西武百貨店の開店当時から営業している関西スーパーも改装オープンした。これにより、地下フロアは全体的に明るくなり、魅せる百貨店に生まれ変わった。
一方、松坂屋高槻店(1979年創業)は婦人服を中心にしたショップが多く、年齢層の高い印象があった。しかし、西武百貨店から阪急百貨店へのリニューアルを機に’20年8月以降巻き返しを図っている。周辺にあったジュンク堂とスターバックスが店内に移転し、近年人気のOWNDAYSも開店した。ジュンク堂は移転前と同等規模の蔵書数だが、新たに文具を取り揃え、陳列方法も以前より見やすくなった。また、スターバックスに関してはJR高槻駅の連絡橋から直接入店でき、店舗面積も広く開放的になり、なんと言っても22時まで営業しているので利便性も高い。そして、一番改装に力を入れていたのが地下の食品売場である。グローサリーに続き、鮮魚・青果も生まれ変わり、高槻初出店の成城石井が9月29日に開店した事で松坂屋高槻店は完全オープンとなった。
ネット通販の拡大や百貨店離れ、少子高齢化の影響で地方百貨店の閉店が相次ぐ中、郊外でひとつの街にこれほどの近さで百貨店が存在するのは関西では珍しい事である。インターネットが普及し、クリックひとつでモノが買えてしまう世の中だが、実際にモノを見て買う楽しみを考え直したい。高槻に住んで30年以上になるが、西武百貨店の名前が消えたことは悲しかったが、高槻が魅力ある街として成長するならこの上なく嬉しい。
冒頭に記したように高槻は地の利に恵まれ、学生・単身者・ファミリー層などの若い世代から地元の年配層まで、多様な人が訪れる場所となっている。現在駅周辺は人気エリアであるため空き店舗も少ない。しかし、街は生きものであり常に変わり続けている。周辺環境の変化による栄枯盛衰はこれまでも数多く目にしてきた。何事もこれで完成ということはない。現状維持に甘んじれば、後退するばかり。そうならないためには街自らが変化し、進化し続ける必要があるのではないだろうか。
以下、2000年以降に閉店した近畿2府4県の百貨店
2000年12月 加古川そごう
2000年12月 奈良そごう
2005年5月 三越大阪店
2009年8月 そごう心斎橋本店
2010年8月 四条河原町阪急
2012年2月 近鉄百貨店枚方店
2012年3月 神戸阪急(ハーバーランド)
2013年1月 大丸新長田店
2014年8月 和歌山タカシマヤ
2014年9月 近鉄百貨店桃山店
2017年2月 西武百貨店八尾店
2017年7月 阪急堺北花田
2018年2月 ヤマトヤシキ姫路店
2019年3月 大丸山科店
2019年9月 そごう神戸店
2019年9月 西武高槻店
2020年8月 西武大津店
2020年8月 そごう西神店
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